チェルシー戦 マッチ・レポート
マイケル・ドーソンとアーロン・レノンのスパーズ新時代を象徴する若き2人のゴールで、一つの負の歴史に終止符を打った日曜ホワイトハート・レーンでのチェルシー戦。マーティン・ヨルがスパーズの監督として指揮を執り始めてちょうど2年目となるこの試合を、1990年2月からリーグ戦のチェルシー戦で勝利なしという呪われた記録を止めるという、これ以上無いかたちで飾った。
チェルシーが先制点を叩き込んだとき、もうしばらくこの記録は継続するものかと思われたが、そこからの反撃は、早々にリードされたスパーズ・ファンが根拠も無く楽観した、いや妄想した理想的なものである。
開始から2分。スタジアムを包み込む大歓声以上に大きな躍動がピッチの上で起こり、さらにスタジアムの雰囲気は最高潮に。MFホッサム・ガリがランパードからボールを奪取すると、そのままゴールに向かって進みシュートを放つ。しかし、これはGKエンリケ・イラリオが難なくセーブ。
8分。DFパスカル・シンボンダに悲劇が襲う。フランク・ランパードの強烈タックルを受け、そのままピッチの外で治療を受ける。痛みに苦悶の表情を浮かべていたが、ピッチに復帰しプレーを続行。
そして、守備で見せたスパーズ・キャプテンDFレドリー・キング。13分にオフサイド・ラインをすり抜けGKロビンソンと1対1の決定機を向かえたアリエン・ロッベンだが、シュート・モーションの間隙を突いて電光石火の追撃を見せたレドリー・キングがタックルでコーナーに逃れる。しかし、そこで与えたコーナーから、チェルシーの先制点が生まれる。中央の混戦のこぼれ玉に、エリア手前から豪快にボレーシュートをネットに突き刺したのは、なんとMFクロード・マケレレ。ロビンソンの横っ飛び敵わず、14分チェルシーに先制点が生まれる。
失点後、やや試合の流れがチェルシーに傾きかけた15分。畳み掛けたいチェルシーは、バラックのフリーキックでスパーズ・ゴールを強襲。これはロビンソンが足でブロック。さらにつづけての17分には、バラックからランパードにつなぎシュート。これもロビンソンがスーパー・セーブで弾き、ゴール・バーを越える。
先制点後、試合の主導権を掌握するチェルシーに対し、スパーズはその状態をいち早く打開する必要があった。
そして、それは24分に訪れた。MFジャーメイン・ジェナスのフリーキックに競り合う選手たちのなか、ひとつ抜け出た頭にボールが当たりチェルシーゴールに吸い込まれる。それは、スパーズ公式戦初ゴールとなるドーソンの頭であった。見事なバックヘッドは、フリーキックの球威を弱めることなく、見事にコースを突きGKイラリオの守るゴールを突き破った。今季、不調を極めたスパーズのセットプレーからの初ゴールであり、主導権が傾き、一方的な展開になりかけていた状態で、時間帯も申し分ないゴールであった。
そして、ここからチームとしての安定感を増したのはリリィ・ホワイツ。そしてチェルシーは平静を保てなくなり、勢いも沈静化。明らかに守勢にまわることが多くなり、ディミタル・ベルバトフは相手をより浮き足立たせようと策略する。マケレレとバラックを抱えながら、強引な突破でシュートを試みるも、イラリオがセーブ。
しかし、次のチャンスはチェルシーに訪れた。33分にエシェンがフリーキックをドログバに当てると、対応したドーソンを背中で抑えながらオーバーヘッド。シュートはロビンソンを抜けるも、これは僅かに枠を外れる。
ここで右サイドのポジションを移したレノンがスパーズを優勢に転じさせる。37分、右サイドをシンボンダと攻略にかかり、一度は手詰まったかのように見えたがアシュリー・コールを強引に交わして左足でクロス。ここにフェレイラの背後から絶妙なポジションに侵入したキーンがヘディングでチェルシー・ゴールを襲う。完璧なかたちでのヘディング・シュートだが、ボールはクロスバーを越え逆転弾はならず。
その後、ドーソンが再びセットプレーからチャンスを掴むが、ゴールの予感はそれほどでもなく、引き分けのままハーフタイムに突入する。ハーフタイムにチェルシーは、前半すでにイエローカードを受けたDFパウロ・フェレイラをベンチに下げ、マーティン・ヨルのRKCバールバイク時代の教え子であるDFハリド・ブラルーズを投入。
しかし、この交代が全く裏目に出、その手痛いツケをチェルシーは負うことになる。前半半ばからレノンが左サイドに移ったと同時に左サイドMFに入っていたロビー・キーンが、左サイドをドリブルで進む。対応するブラルーズと向かい合いキーンがフェイントを掛けるとブラルーズが転倒。それに乗じ、縦に突破したキーンが左足でクロスをあげると、チェルシーDFに当たるもボールはゴール前のレノンに渡る。
時計の針は52分を刺していた。キーンのクロスを受けたレノンは、ワントラップでマークについたアシュリー・コールを交わすと、左足のサイドキックでチェルシー・ゴールの左隅を狙う。GKイラリオは成す術なし。ボールはゴールネットに突き刺さり、同時にホワイトハート・レーンは大爆発。
63分には再度キーンがブラルーズの裏を取りゴールエリア左から決定機を演出。ゴール前に走りこんだベルバトフに、チェルシーとの点差を広げるべくアシストを送る。しかし、ベルバトフはシュートをミートできず。このプレーと1点のリードを埋めるべく戦略的理由も相まって、後半から投入されたブラルーズは、FWソロモン・カルーに67分に交代。わずか22分のプレーでベンチに下がる。
直後の70分。ここで、もう一つのドラマが展開する。セットプレーでレドリー・キングと交錯し、そのプレーの直後にスパーズの選手たちと小競り合いを演じた直後に、チェルシーDFジョン・テリーにこの日2枚目のイエロー・カードが提示され、チェルシーのキャプテンはピッチをあとにする。
残り20分間、10人の戦いを強いられたチェルシーだが、流石は王者。終盤となったこの時間帯でも、ブルーズは攻勢をさらに強める。79分、チェルシーのコーナーから、ガリが自陣エリア手前でクリアを試みたところをカルーにボールをさらわれ、そのままシュート。コースを突いたシュートにスパーズ・ファンも肝を冷やされるが、これはロビンソンがスーパー・セーブ。
まったく攻撃の手が緩まないチェルシーはさらに83分。ドログバからエリア内に走りこむランパードにつなぎシュート。しかし、このシュートはクロスバーを大きく越える。スパーズの11人が、チェルシーの10人に押し込まれる状況に、マーティン・ヨルはキーンに代えてデフォーを投入し、この日初めてのカードを切る。デフォーは、わずかな残り時間で3回のカウンター攻撃に絡み、そこまでの劣勢をやや盛り返すことに成功。ヨル采配は的中する。
しかし、最後の決定機はチェルシー。86分にペナルティ・エリア右でボールを受けたロッベンに与えたわずかなスペースで、一撃必殺の左足が炸裂。緩やかに円を描き、スパーズ・ゴールの左隅を襲う弾道にスタジアム中が眼を奪われる。次の瞬間、ボールはポストを叩き難を逃れたスパーズ。スパーズにとって今世紀最大の勝利と言っても過言ではない、会心の勝ち点3を手にした。

